【定番お題】おらが町自慢を一句(2026.06)

地元の好きな景色、食べもの、人、思い出。やっぱり地元が一番!そんな地元愛を一句。
あなたの町のいいところを、五七五でゆるく自慢してください。
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地元の好きな景色、食べもの、人、思い出。やっぱり地元が一番!そんな地元愛を一句。
あなたの町のいいところを、五七五でゆるく自慢してください。
「おらが町自慢を一句」に、たくさんのご応募をいただきありがとうございました。美しい自然や名物の味、地域に息づく行事、懐かしい故郷の記憶、町で暮らす人々の姿まで、さまざまな角度から地元への思いが詠まれた二十七作品が集まりました。町の魅力は有名な観光地や特産品だけにあるのではなく、そこで暮らしてきた人にしか見つけられない小さな風景の中にもあるのだと、あらためて感じさせられる作品群でした。
今回の応募作品には、山や海、川、滝、蛍、星空、花火といった自然の景観を詠んだ句をはじめ、静岡おでんやコロッケ、初鰹、冷酒、返礼品など、土地の味覚や暮らしに根差した題材が数多く登場しました。また、盆踊りや帰省列車、子どもたちの下校風景、みかん農家から届く便りなど、単なる名所紹介にとどまらず、その町で生きる人の記憶や営みを描いた作品も印象に残りました。
特に心を引かれたのは、「町のすばらしさ」を説明するのではなく、一つの場面を見せることによって、読み手にその魅力を感じさせた作品です。帰省する列車が次第に訛り始める様子、学校帰りの子どもたちがコロッケ屋に集まる光景、ダムの底に沈んだ村を思いながら続けられる盆踊りなど、具体的な情景のある句からは、土地の空気や人々の声、食べものの香りまでもが伝わってきました。「自慢」という言葉を直接使わなくても、その町を大切に思う気持ちが自然ににじみ出ています。
一方で、「絶景」「清き水」「美しい山や海」といった言葉だけでまとめると、どの町にも当てはまる表現になりやすい面があります。そこに、その土地ならではの建物、行事、食べもの、方言、音、匂い、地形などを一つ加えることで、句の中の町はぐっと鮮明になります。すべてを説明しようとせず、「この一場面を見れば、わが町の良さが伝わる」という一点に絞ることも、短い言葉で魅力を伝えるための大切な工夫です。
また、自然や郷愁を端正に詠んだ作品だけでなく、「自慢するものがないのが自慢」「クマの出没で休校」「町のほうが返礼品を自慢したがる」といった、少しひねりのある作品が寄せられたことも、今回のお題の面白さにつながりました。地元への愛情は、堂々と誇る表現だけではなく、困ったところや何もないところまで笑いに変える親しみの中にも表れます。
選考では、お題との結びつきに加え、場面の具体性、言葉の意外性、町の姿が目に浮かぶか、読み終えたあとに余韻が残るかという点を重視しました。入賞作品には、特別な名所を並べるのではなく、町に積み重なった時間や日常の暮らしを一つの印象的な場面として切り取った句を選んでいます。どの作品からも、それぞれの作者が心の中に持っている「帰りたい町」「守りたい町」「誰かに教えたい町」の姿が感じられました。


故郷へ近づく帰省列車が「訛り出す」という擬人化が、とても巧みな作品です。実際に訛っているのは、列車に乗り込んでくる乗客の会話や車内に聞こえる声なのでしょう。しかし、それを列車そのものが訛り始めたように表現したことで、故郷へ帰っていく高揚感が生き生きと伝わってきます。
出発したときには標準語が多かった車内が、駅を重ねるにつれて少しずつ懐かしい言葉に包まれていく。景色を詳しく描いていないにもかかわらず、窓の外の風景まで都会から故郷へと変わっていくように感じられます。耳から土地の境界を表現した点が、この句ならではの魅力です。
方言は、その町で暮らす人にとって日常の言葉であると同時に、離れて暮らす人にとっては故郷そのものでもあります。「帰ってきた」と実感する瞬間を、駅名や名所ではなく、人々の声によって描いたところに温かさがあります。多くの人が自分自身の帰省の記憶を重ねられる普遍性を持ちながら、土地ごとに異なる訛りの存在をしっかりと感じさせる、余韻豊かな一句です。

地域の名物である「静岡おでん」を正面から取り上げながら、その最大の特徴である「黒い出汁」に焦点を絞ったことで、視覚的にも味覚的にも印象に残る一句となりました。単に「静岡おでんがおいしい」と説明するのではなく、黒い出汁の色を提示することで、読み手の中に鍋の景色や香り、味わいまで想像させています。
冒頭の「恋しくて」には、今は故郷を離れている人の思い、久しぶりに食べたいという気持ち、懐かしい店や一緒に食べた人への記憶など、さまざまな感情が込められています。食べものそのものだけでなく、それを囲んだ時間まで恋しくなっているように感じられるところが、この作品の温かさです。
土地の味は、そこで暮らした人の記憶と強く結びついています。特徴的な色を持つ「黒い出汁」は、静岡の人にとっては見慣れた日常であり、ほかの地域の人にとっては興味を引かれる個性でもあります。具体的な土地の名前と、その土地ならではの食文化、作者の素直な郷愁が一つにつながった、親しみやすく説得力のある「おらが町自慢」です。
「ダム底の村」という、今は見ることのできない場所を冒頭に置いたことで、一句の中に土地の歴史と失われた時間が立ち上がりました。その村に対して「盆踊り」が灯りをともすという構成が、非常に印象的です。
「灯す」は、盆踊りの提灯や祭りの明かりを表すと同時に、ダムの底に沈んだ故郷の記憶を、現在を生きる人々がもう一度よみがえらせることも意味しているように読めます。なくなった村を悲しむだけではなく、踊りや笛、太鼓を受け継ぐことで、今もその村を生かし続けている。そんな地域の強さと優しさが感じられます。
町の自慢を、名所や名物ではなく、「失われた故郷を忘れずに守り続ける人々の営み」として描いた点にも深みがあります。過去と現在、静かなダムの底とにぎやかな盆踊りという対照も鮮やかで、わずかな言葉の中に大きな物語が収められています。土地への愛情と、そこに積み重なった時間を最も強く感じさせた作品として、金賞に選出しました。